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第6章 明かされた真実 8/9

last update Last Updated: 2025-05-29 11:00:52

 柚希〈ゆずき〉の部屋で一緒に食事をしている間、早苗〈さなえ〉の頭に数々の疑念が渦巻いていた。

 昨日、柚希に対する自分の気持ちを知った。

 この想い、いつか柚希に伝えたい。そう思った。

 そしてその想いは同時に、柚希のことをもっと深く知りたい、そういう欲求を生み出すことになってしまった。

 しかしそれを要求すれば、柚希の心を遠ざけてしまうことになるかもしれない。

 そのジレンマが早苗を苦しめていた。

 どうして呼んでもいないのに、桐島先生は来たのか。

 それにあの空気……二人の間に、医者と患者の関係を越えた何かを感じてしまった。

 言葉を交わさずとも通じあえる関係。そんな風にも思えた。

 それはいつ、どうして生まれたのか。

「ごちそうさまでした」

「え?」

「おいしかったよ、早苗ちゃん」

「あ……う、うん。お粗末さまでした。その調子なら、今夜ぐらいからしっかりした料理、食べられそうだね」

「うん。僕もそろそろ、固形物が食べたいかな」

「分かった。じゃあ夕ご飯、楽しみにしといてね」

「ありがとう。ところで早苗ちゃん、まだ全然食べてないけど。食欲ないの?」

「あ、あはははっ……ちょっとまあ、さっきのことが気になってね」

「さっきのこと?」

「……うん……」

 そう言って早苗が箸を置き、うつむいた。

「あの……さ、柚希……昨日も言ったけどね、私の知らないところで柚希が苦しんでるのを知って、私……哀しいんだ……

 私、柚希のことをもっと知りたいと思ってる。柚希の好きなこと、嫌いなこと。夢中になれること……でもさ、そうやっていちいち干渉するのって、ちょっと
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